#49

東京大学の入学式にて、卒業生でもある米田あゆ氏の祝辞を挙げる。

 

ジョブズの「コネクティング ザ ドッツ」を体感

そこで私の頭をよぎったのは、スティーブ・ジョブズの「コネクティング ザ ドッツ」というフレーズでした。

直訳すると「点と点を繋ぐ」という意味ですが、大学でカリグラフィを学んだ彼の経験が、後にMacの美しいフォントデザインに役立ったという実体験に基づいて話されたものです。

一見、関連がなさそうに見える色々な経験は、後に思いもよらぬところで繋がり、あなたならではの新たな価値を生み出すきっかけとなると言いたかったのでしょう。

私にとっては、ヨット部での経験というドットが、宇宙飛行士選抜試験というドットに繋がったのです。

ドイツの近代哲学者であるカントは、すべての経験は感性による多様な感覚から始まり、その感覚が取りまとめられることで個人の理解となり、さらに理性によって皆と共有できる真の知識が得られるとしていますが、これも「コネクティング ザ ドッツ」の考えに、通じるところがあるように思います。新しく共有される知識に至るには、まずは勇気を持って独自の一歩を踏み出し、またそれを続けることが必要です。

そして、あなた自身のストーリーが作られ、独自の強みや魅力ともなるのです。自分の内にある願望や興味に耳を傾け、少しでもやってみたいと思う芽を大切にしてください。未体験や未開拓の地に足を踏み入れた経験が次の新しい一歩を踏み出す原動力となるはずです。


さらに「コネクティング ザ ドッツ」の考え方は、人間関係の観点からは、偶然とも思える人々との出会いが、徐々にネットワークとなり、後になって大きな社会の形成に役立つということにも通じると思われます。

皆さんが卒業するころには、3000個のドッツの間には多くの線が引かれ、豊かなネットワークが形成されることでしょう。

このネットワークは、一人ひとりが踏み出した第一歩から紡がれるのです。